ドラキュラやきん! (電撃文庫)

 

 

ドラキュラが夜勤するという、実に分かりやすいタイトル。

 

主人公はコンビニ店員。
コンビニ店員ならではのシーンはあるが、ブラック労働環境で苦しんでいる人を描く暗いお話ではないので、安心して読める。

 

シリアスな危機もあるが、残念系のヒロインが場を明るくしてくれるから嬉しい。

 

物語を作る上で「性的な意味で枯れている主人公は不利」かと思えば、ヒロインの行動力でカバーするし、特に後から登場する和風少女の行動はラブコメちっくで、物語に潤いが生まれている。

「え、それ一巻で明かしちゃうの? 今後の『引き』じゃないの?」というような主人公の過去を明かしてしまい、どうするのかと思えば、ヒロインの過去や境遇で興味をスイッチさせていく構成が上手い。

 

コミカルとシリアスがいい塩梅に混ざった作品なので、万人受けしやすいと思う。
「なろう系しか読まん」みたいな人以外に、広くオススメ。

 

内容だけでなく、タイトルも良かった。


吸血鬼を意味する言葉として使われているけれど、ドラキュラはあくまでも人名。
ヴァンパイアではなく、ドラキュラにしたのは、語感を良くするため。
「ヴァンパイアやきん」と「ドラキュラやきん」では確かに、ドラキュラやきんの方が発音しやすい。
それと、主人公の名前が言葉遊びになっている。


さらに本作の後半で「ドラキュラ」でなければならない理由が窺えてくる。


Wikipediaでは

 

ドラキュラはルーマニア語で「竜の息子」を意味する(竜は悪魔という意味もある)。

 
とあるが、欧州はローマ帝国という広大な帝国があったことや、国境を外国と接していることもあって、各国の言語には同じ意味の単語が存在する。
ドラキュラは「ドラクのウラ」を意味し、国によってはドラクは竜ではなく、悪魔そのものを意味する。


つまりタイトルは主人公が「悪魔の子」であることを示唆している。


一見するとカタカナとひらがなだけで構成された緩いタイトルだけど、物語の根幹になる設定が仄めかしてある。
俺じゃなきゃ、見逃しちゃうね。

 

「やきん」もひらがなで書いてあるので、きっと何か意味があるはず。
もしかしたら「やきん」で切れるのではなく、「ドラキュラや、きん」なのかもしれない。