【小説1巻】本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第一部「兵士の娘I」 (TOブックスラノベ)

 

 

人気投票企画『https://lightnovel.jp/best/2021_01-06/vote.html』で二番目に票数を得ていた作品。

 
女子高生が中世ヨーロッパ風の世界の幼女に転生して生きていくお話。
面白かった。

 

明確な資料が現代まで残っていないから、中世ヨーロッパにおける庶民の生活はどれだけ調べても、結局よく分からない。
だから創作するときに中世ヨーロッパ風の世界を書くときは想像して書くしかない。

で、その想像が作家の仕事なんだけど、
「ゼロから想像したツッコミどころ満載の世界」なのか「分かる範囲で調べた上で想像した世界」は大きな違い。

本作は明らかに後者。


豚の解体に関する描写の参考にした資料を教えてもらいたい。
いや、本当に、中世のお話を書くと、豚を何処で買って何処で解体するのか、悩ましいの……。


あと、職人(今で言う正社員)以外の人が日中、何をしていたのか、具体的な資料はまったく残っていない。

作中でも紙が貴重だったことから分かるように、庶民が自分達の生活を書き残すことは実質不可能。
想像で書くしかない部分なんだけど、本作の主人公は幼女として、妥当と思える行動をとっていた。

 

本作は街があって、そこで人間が生きて生活していた。

トイレやお風呂の描写から逃げなかったのは凄い。ファンタジー作品を書くとき、みんな、逃げるか、ごまかす。


本作は逃げずにちゃんと書くことにより、登場人物に命が与えられていた。

 

生きているからこそ気になってくるのが、転生元の幼女や、主人公を失った現代の家族が、どうなったのか、ということ。

大半の転生作品だと「作品に興味を持てない、没頭できない」という悪い意味で気にならないんだけど、本作は世界がきっちり書かれて登場人物が生きていたからこそ、気になる。

 

主人公が、転生前の知識を持っていても活用しきれないのも、面白い。
うろ覚えの知識や、経験が伴わない知識を活かすことができない。
失敗ばかりする。
でも、失敗がストレス展開にならずに「乗り越えていくことへの期待」に繋がってくるため、気楽に読める。

 

 

元がWEB連載だから「一冊分の小説として見たときの終盤での盛り上がり」に欠けるのは残念だけど、主人公の生死や秘密に関わるような謎をラストに持ってきて、次への「引き」にしているから、続きが気になる。

 

ただ、終盤が「主人公の友人の問題を解決する」ための展開で、さらに「第三者による、主人公の噂話」で終わり、「主人公の物語」ではなくなっていたのは残念。巻末のおまけと相まって、読後感を損なっていた気がする。


巻末のおまけはファンサービスなんだろうけど、読後感を損なうから、なくても良かった気はする。特に現代の方って、解釈によっては「主人公は現世で信頼していた人間から呪われた」ことが原因で転生したという伏線にも思える。もし、そうではないなら、なんのためにあるのか、良く分からない謎エピソードになってしまう。

 

連載作品の単行本化として読むか、「これ一冊で完結する一つの物語」として読むかによって、読後感は大きく変わりそう。

 

新規に読む人は、週刊漫画の単行本のように「長い物語の最初の部分」を読むつもりで、読んだ方が良い。