時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん (角川スニーカー文庫)

 

 

 

ブコメとして99点の作品だった。
続刊でもっと面白くなったときのために、100点がつかないだけで、ほぼ完璧な面白さだった。


タイトルどおりの内容だった。


ロシア人(ロシア語を話すだけで、ロシア人ではない)ヒロインがロシア語でデレるんだけど、主人公がロシア語を理解できるからこその、物語が展開される。
いいですね、これ。

 

ヒロインは「主人公はロシア語が分かるわけない」ことを前提にしてロシア語で喋るから、本音で言っている。
疑いようのない「主人公への好意」は、どんなシーンでもニヤニヤ楽しめる。


主人公は「ロシア語が分からないフリをする」という構造も面白い。
めちゃくちゃ好意をアピールされているのに、気付かないフリをする状況は『やたらと耳の遠い主人公』の進化系と言えるかもしれない。


もう、この主人公とヒロインの関係だけで、絶対に面白いのに、それだけで終わらないのも良かった。


サブヒロインが実にいい味を出して物語を盛り上げる。
ネタバレになるから書けないけど、この「学校では恋のライバル(だいたい負けヒロイン)になるポジションでありながら、絶対にそうはならない」位置づけっていい。

 

さらに、今回は出番が少ないけれど、続刊で活きてきそうな設定のサブヒロインもいるし、あらゆる設定が上手く機能している。


「王道」から逸脱しないように設定を捻って目新しさを出した傑作だった。

 

特に週刊少年ジャンプのラブコメに顕著なんだけど、『長期連載して中だるみするラブコメの欠点』に、「主人公を中心にした人間関係しか描かれておらず、ヒロイン同士の関係が不明」というのがあるのだけど、本作は、それが一切、ない。


むしろ、ヒロイン同士の関係が濃く描かれているし、「主人公とヒロインの関係」と「主人公とサブヒロインAの関係」と「主人公とサブヒロインBの関係」が、すべて異なるタイプ。
これを満たすラブコメは、事件なんて起こらなくても、日常を過ごすだけでも、絶対に面白いのよ。

 

残念なところは、ロシア設定がまったく活きていないということ。

フランス人でもアメリカ人でもイタリア人でも成立する。

紅茶にジャムを入れたりコサックダンスを踊ったりしてくれとはいわないけど、ロシア文化を出してくれないと、ロシアの血をひいている設定が完全に死ぬ。

 

言語は文化なので、必ず言動に影響が出るはずなのに、まったくなかった。

 

ただ、ロシア語はあくまでも主人公との関係に特異性を持たせるためのギミックに過ぎないので、ラブコメとしての魅力を損なうものではない。

 

でも、面白の加点にはなるのだから、ロシア要素を盛り込んでも良かったのでは、と思う。